これはカワサキW650デビュー当時のカタログに寄せた文章です。カタログに使用したマシンは、ぼくのW650なので、リアキャリアなどが付いていますね。
インターチェンジを下り、田園地帯を貫く県道をさらに北へと向かう。高速道路による長距離移動を何のストレスもなく消化したW650ではあるが、やはりカントリーロードこそ相応しい。レスポンスのいいスロットルを右手でコントロールしつつ、チェロの響きを想わせる排気音の変化を楽しむ。
やがて道は山岳ワインディング・ロードとなり、ロングストローク・バーチカルツインの鼓動がいっきに高まる。フューエルタンクのニーグリップラバーを膝ではさみつけ、右に左にとリーンウイズで軽快にカーブをクリアしていく。W650に乗って最初に驚かされたのが、コーナリング性能の高さだった。コーナリングばかりでなく、W650はいい意味で予想を裏切る走りを味わわせてくれる。W650との旅の眼目は、このオートバイが持つ度量の深さを知る過程にあると言っていい。
湖の近くにあるホテルに到着したのが夕方だった。ここの建物はとてもモダンでありながら、周辺のお寺や神社、それに森や湖ともマッチしている。W650をその前に停め、一歩下がって眺めた。少しも違和感がない。W650は超高層ビル群にもブナ原生林にも、うまく溶け込む。これらの事実は、一見、懐古趣味と受け取られがちなW650が、ひとつの普遍性に到達した造形であることを教えてくれる。
思えば、並列二気筒のビッグバイクに新車で乗ることなど夢物語でしかないと諦めていたところにあらわれたのがW650だった。豊かな曲線を持つタンク、キャブトンタイプのマフラー、大経のタイヤ、そしてバーチカルツインのエンジン--これらがすっきりと、なおかつ重量車らしくまとまっているW650に僕は一目惚れをし、これに乗るために大型免許を取った。それは僕にとって年齢的にも仕事の面でもひとつの節目にあたり、これからの道を見極める時期に重なっていた。
ある大作家が「小説家の仕事は創(う)むこと、考えること、学ぶことだ」と言っている。考えるとは自己を見つめることを含んでいる。精神の豊かさを生む創造的な日々は、これらを実践することによって約束される。断っておくと、創造的な日常とは何も小説や詩を書くことに限らない。明日への活力を感じつつ毎日を過ごすことができれば、それこそが創造的な日々なのである。
道を見極めるにはがむしゃらに突っ走ってはならない。一歩下がって視野を広く持つことが肝要だ。創造的な日々を送り、精神の豊かさを追求する人にとって、W650はよき伴侶、よき相棒となってくれる。
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