賢治のチェロを聴く
報告が遅れたが、9月21日に「賢治祭」に行ってきた。これは宮沢賢治(これまで、ぼくは時代的なことを考慮して、宮澤賢治と書くようにしてきたが、改めて賢治の自筆を見ると「宮沢」と書いている。新しいものを積極的に取り入れる賢治だったから、新字にも抵抗がなかったのかもしれない)の命日に昭和9年から欠かさず開催されてきたという。
今年の話題は何といっても、6年ぶりに賢治のチェロが宮沢賢治記念館から「散歩に出た」(林風舎談)ことだ。演奏者は6年前にもこのチェロに命を吹き込んだ藤原真理さんだ(そのときの、ぼくは岩手日報の特別企画で藤原真理さんと対談をさせていただいた)。
演奏曲目は下記の通り。
[1]バッハ:アリオーソ
[2]ヘンデル:ラルゴ
[3]エルガー:愛の呼びかけ
[4]カタロニア民謡(カザルス編):鳥の歌
[5]宮沢賢治:星めぐりの歌
[6]宮沢賢治・林光:星めぐりの歌(ヴァイオリン/花巻私立花巻小学校6年 宮澤香帆)
チェロ:藤原真理
キーボード:倉戸テル
会場は「雨ニモマケズ詩碑前」の広場、すなわち羅須地人協会がかつてあった場所だ。つまり、野外である。にもかかわらず、藤原真理さんはPA(マイク)を通さず、生の音で豊かな響きを聞かせてくれた。
しかも、予定では最後の曲だけを賢治のチェロで弾くことになっていたのだが、全曲を賢治のチェロで弾かれた。真理さんのことだ、片時も離さずに音出しをし、備えてくださったのだろう。いつもながら、頭が下がる。
宮沢賢治記念館からチェロ(門外不出とされている)を借りるにあたっては、二転三転あったらしい。最終的には大石市長の英断で今回の演奏会が実現し、花巻市民のみならず、全国から訪れた多くの人々に喜ばれた。
楽器は飾っておけば、楽器の形をしたタダの箱になってしまう。これを死蔵という。もともと賢治のチェロは藤原嘉藤治に貸していたおかげで、宮澤家が火災の際に焼失をまぬがれた「奇蹟の楽器」だ。「オレのカカだもす(俺の女房だ)」というほど愛していたチェロを、親友に貸すという賢治ならではの行為がこの奇蹟を起こした。 「門外不出」は賢治の精神に最も反するものとぼくは思う。
藤原真理さんからいただいたメールを一部紹介させていただく。
楽器は一年に最低一度はチェックがてら弾かないと、弾きにくくなるみたいです。前回はヨーヨー・マが触ったあと翌年だったかで、もう少し素直な感じでした。
何か1曲だけガルネリで弾こうかと最後まで迷っていたのですが、、お客さんは熱心な賢治ファンのかたがた、1本にしぼりました。
賢治記念館のロビーがかなり響きが良いので、ピアノもありますし、わたくしが日本にいて、他の本番と重ならないかぎり、お手伝いで伺い、ミニ演奏会と楽器チェックが毎年実行できないか、考えてもらおうと思います。 (ガルネリは真理さん愛用の名器。その音もぼくは聴きたかったが)。
真理さんのお気持ちが花巻市民に伝わり、来年以降もきっと実現するだろうとぼくは思っている。
ところで、真理さんの演奏の前に岩手県立農業高等学校鹿踊り部による鹿踊りがあった。声が若く、動きがシャープかつ野性的で、迫力があった。観ていて涙がこみ上げてきて、どうしようもなかった。民俗芸能を見て、こんな気持ちになったのは初めてだ。
50年近く前に、この鹿踊りを見て感激した岡本太郎の気持ちがちょっとわかったような気がした。
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